障がい者雇用の課題について

レポート

中島 隆信(慶応義塾大学 教授) 障害者雇用は転換期を迎えています。雇用率は着実に上昇していますが、その中身は大きく変わろうとしています。これまでは特例子会社での間接業務がメインでしたが、相次ぐ法定雇用率の引き上げにより、本来業務での戦力化を考えなければならなくなりました。つまり合理的配慮をもう一段高いレベルまで引き上げる必要が出てきたのです。これは企業と当事者だけでは難しく、教育機関や福祉も含めた社会全体で「配慮のコスト」を下げるという発想に立たなければなりません。そのための智恵を出すことがいま求められていると思います。 朝日 雅也(埼玉県立大学 教授) コロナウイルス禍は障害者雇用にも大きな影響を与えています。特にリモートワークが難しい分野での苦闘が報じられています。でも、コロナ禍以前は障害者雇用の質は保証されていたのでしょうか。障害者の働くことが雇用率や就労移行率、定着率といった数値として対象化され、それを増大させる社会側の論理が優先していたのではないでしょうか。たとえ、きっかけは雇用率であったとしても職場で働き合う喜びを共有できるような雇用の質が求められます。社会の分断化を生み出しやすい状況だからこそ、障害者雇用を希望の灯にしたいものです。 影山 摩子弥(横浜市立大学都市社会文化研究科 教授) 企業が、障がい者が戦力になったり、社内を改善したりするなどの経営上の意味を認識すること、および、その意味を引き出すノウハウを習得することが必要です。 経営上の意味があれば積極的な取り組みが期待できますし、合理的配慮も充実し障がい者にとって質の良い就労の場になる可能性があります。 しかし、企業が経営上の意味やノウハウを把握するためには、障がいに詳しい就労支援組織との連携が不可欠です。 ただ、取り組みを促すためには、企業が障がい者雇用の経営上の効果を「実感」することが重要であり、障がい者雇用に関する戦略評価が必要です。 守屋 剛 (戦略的CSR研究会/慶應義塾大学講師) 企業のモノづくり現場では、多様性の高い人材活用が求められていますが、同時に、イノベーションを生み出し、価値創造に繋げることも求められます。 以前、重度障がい者雇用を進めるサンアクアTOTO株式会社(北九州市)を訪問し、感銘を受けました。障がいのある社員が自ら作業環境の改善を提案し、最新の3Dプリンタなどを駆使して、常に改善を施すことで健常者と変わらないか、もしくはそれを上回る作業スピードと品質を実現していました。社員全員の目がキラキラしていて、やる気にあふれていました。 障がい者と共に働き、視野を広げることによって企業にとって重要な効果がもたらされるのではないでしょうか。 増田 雄亮 (湘南医療大学 作業療法士) 職業リハビリテーション・障がい者就労の大きな課題として、心理・認知・感覚・精神の障がいは自他共に理解がしづらく、具体的な配慮事項が見えづらいことによって本人の働きづらさに繋がっている点にあるのではないかと考えています。この課題を解決するためには、医療・福祉・教育機関などとの連携が欠かせず、障がいのある人もない人も双方向の理解とコミュニケーションを促進していくことが必要だと思います。多様な価値観と関係性の中で、障がいのある人が社会の一員として活き活きと働ける社会になることを願っています。 渡邉 真規 (株式会社 ワタナベ美装  代表取締役社長)  働くうえで、大切なことは、やはりそれぞれが尊重しあうことだと考えています。 やはり、一緒に働く仲間がそれぞれの、個性や特性を尊重できなければ、障がいのあるなしに 関わらず、働きづらさを感じてしまいます。 そのうえで、障がいをもって働かれる方への理解と配慮が必要だと考えます。 また、雇用する前に、実習を行うことは、お互い知ることができるいい機会だと思います。 就労支援事業所のサポートもとても有効で、会社に直接言えないことも、就労支援事業所から聞くことができます。障がいを持つ方が働くことが、特別ではない社会にならなければならない と考えます。      庄司 浩 (埼玉県障害者雇用総合サポートセンター 企業支援・精神障害者雇用アドバイザー) 〇サテライト型の雇用を利用する企業が増えていること。 障害者の家族の立場からすると、なかなか就労が決まらない障害者の受け皿となり、大手企業に雇用され安心という見方もあり、完全に否定できないが、このやり方を安易に利用している 企業には疑問を抱く。違法ではないが、これがどんどん広がると、本来の障害者雇用の制度そのものが根底から崩れてくる。 〇就労年齢の身体障障害者が減り、精神障害者が増加している中、精神障害者を雇用するための合理的配慮が出来うる企業がまだまだ少ない。 安心して働ける環境を整えれば、継続して働ける精神障害者は沢山いるのだが、、、。 山口 将秀 (株式会社トレパル  代表取締役社長)  障害者雇用はご本人か身内や知人に障害者がいない場合は、率先して取り組む方が少ないように感じます。また、企業では効率化、生産性に重きを置くのは当然のことで障害者雇用の仕事の切り出し、定着に時間がかかる点が懸念されてしまうことは想像できます。それでも、私たちは一人では社会で生きていけません。 障害者一人一人と向き合う企業の姿勢が他の社員にとっても働きやすい環境に繋がり、良い会社づくりに繋がるのだと思います。そして、社会の課題を自分ごととして捉え、率先して取り組む企業の姿勢が社会全体で問われる時代になってきていると肌で感じています。 成戸 克圭 (「いい会社」研究会・TNC・なると社会保険労務士事務所)   「働く障がい者の方にどんなことが足りていないのか」 障害の種類にもよりますが、 ・人に好かれる態度と心構え。これが難しければ人に嫌われないような態度と心構えです。挨拶や感謝、これを表面的ではなく有難いと思えること。そうすれば返礼を何とかしたい気持ちも生まれるはずです。出来るかどうかは別としても、それは相手に伝わるものと考えています。そこに人と人の関係性が生まれると思います。与えられる側という線引きは良くないように思います。 ・体力です。働き始めると体を動かすための体力も必要ですが、心を使うことも体力が必要です。そして職場では心を使う機会が多く、学校や家とは比べ物にならないからです。 ・知識や仕事に必要な具体的な内容は、その場で得るしかないこともあり、出来れば新しい事柄を積極的に愉しむくらいの姿勢があると理想かと思います。 職業リハビリテーション・障がい者就労の大きな課題として、心理・認知・感覚・精神の障がいは自他共に理解がしづらく、具体的な配慮事項が見えづらいことによって本人の働きづらさに繋がっている点にあるのではないかと考えています。この課題を解決するためには、医療・福祉・教育機関などとの連携が欠かせず、障がいのある人もない人も双方向の理解とコミュニケーションを促進していくことが必要だと思います。多様な価値観と関係性の中で、障がいのある人が社会の一員として活き活きと働ける社会になることを願っています。 河上 朗 (「いい会社」研究会・TNC・株式会社JEAN  代表取締役社長)  日本企業ならではの多能工(マルチスキル)人材を求め、育てる風潮は、働く障がい者の方にとっての「働きづらさ」を生んでしまっている原因の一つなのではと感じます。例えば、雇用する企業が、皆さんの個々の強みを活かし互いに補い合える風土づくりや、個々に合わせた適材適所の役割の配置などの積極的な取り組みが、課題解決に繋がるのではないでしょうか。また、既存の業務や配置先に固執し過ぎず、日頃より、各部署と入念な対話を行うことで、新たな業務や役割を切り出すこともできるのではないでしょうか。当日、参加させて頂くことを楽しみにしております。 安達 康弘 (埼玉県障害者雇用総合サポートセンター 企業支援・障害者雇用チャレンジ推進員) -元特別支援学校進路担当教員の立場から-  障害者にとって企業での一般就労だけではなく、生活しやすい居場所をみつけることが肝要と思われます。学校が考える就職と企業が考える雇用に少し違いがあるように感じます。学校は生徒のできる仕事がある会社を選びます。しかし、企業は福祉ではないので賃金に見合う仕事ができる生徒を求めています。この違いをせばめるためには、学校側は企業のことを理解し、企業側は学校での指導や取り組みを知ることが大切だと思います。学校、企業の見学会や情報交換会の場が必要になってくると思います。 山内 桂子 (埼玉県障害者雇用総合サポートセンター 企業支援・精神障害者雇用アドバイザー) 「障害者雇用のソフトランディングについて」 一般就労をされている障害者が知的の場合、どのタイミングで働く場を福祉に移行していった方が良いか考えていく必要があるのではないかと思います。個人差はあるものの加齢とともに作業能力、または認知の低下によりそれまでできていたことができなくなるケースが増えてきます。 できるだけ雇用を延ばそうとすると、雇用終了(退職)するタイミングでは、福祉施設になかなか入れないことが起きてしまうこともあります。 関根 健一 (geedesign 代表) 私は、障害者雇用は「障害者や社会のために企業が行うこと」を指すと思っていました。 でも、知れば知るほど、その考えは違うことに気づきます。 企業がこれからの時代を生き抜くためには、漫然と事業を続けていてはいけません。 かと言って、イノベーション(革新)を起こすことも簡単ではありません。 イノベーションを起こす為には「多様性」が不可欠です。 即ち、障害者雇用は「会社が強くなるための多様性をもたらしてくれる」行為なんだと思います。 こんな風に考える企業を増やして、障害者雇用から社会を変えていきましょう! 谷田 正樹 (有限会社ノア 専務取締役) 私は障害者とか障害者ではないとか、本当はあまり関係ないと思っています。 「障害者雇用」という造語に違和感を感じているくらいです。 でも、障害者雇用は可能性を拡げる雇用の1つ。 例えば、働き方の認識・雇用の考え方・職場環境整備への着眼点。 新しいビジネスプランのひらめきもあるでしょう。 コロナで、今の常識が非常識になる変化の時代。 深く考え過ぎず、一歩実践したら見える、弱みが強みに変わる発想。 これまでの認識を変え、障害者雇用から、企業に・地域に・そして社会に、大きな化学反応が起きる事を期待しましょう。 小松 充 (MCSハートフル株式会社  代表取締役社長) 2021年3月より障がい者法定雇用率は2.2%から2.3%にアップしましたが、障がい者雇用は数値義務を達成する事を目的としてはならないと思います。 雇用はあくまで手段であり、我々は障がいを持つ人が心豊かに社会で生きていくための基盤となる、経済的自立と精神的自律を達成することを目的としなければならないと考えます。 私たちはそのために必要な支援や環境を整える事を命題として、今後も障がい者雇用に取り組んでまいります。 後藤 正成 (「いい会社研究会」・TNC・ 医師) 障がい者雇用を始めようと考えられている企業は、知識やノウハウなどの情報不足からくる不安と、その結果として生じる「社内理解」への障壁が、雇用を進める上で大きな問題となっています。逆に障がい者の方はこういった会社側の不安や理解不足を感じてしまい働きにくくなると言う悪循環に陥ってしまいます。障害の有る無しに関わらず、だれでも働き始めは不安になります。障がい者の方ならなおの事でしょう。解決策の一つとして、障がい者雇用は2人以上の雇用から行った方が良いです。身近に仲間がいると言うのは非常に大事です。 川嶋 英明 (「いい会社」研究会・TNC・社会保険労務士川嶋事務所) 法定雇用率が上がっているのに中小企業の障害者雇用は進まないのはなぜでしょうか。 法律や行政の面でみると、まず、法律には法定雇用率未達成の事業所に対する罰金のような制度があるものの、これは規模が100人超える場合しか適用されません。 また、法定雇用率未達成事業所は行政指導の対象ではあるものの、現実には規模が130人を超えてるところにしか行われていません。 なら、もっと強制力を高めた方が良いのかといえばそんな単純な話でもなく、強制力だけでは解決できないのが障害者雇用の難しいところだと思います。 橋本 翔太 障がい者雇用における2021年時点での法定雇用率は2.3%に引き上げられた。2020年の統計では、この割合を達成したのは大企業が1番多く、達成割合として60%を達している。一方、それ以下の企業規模では、4~5割程度となっており、実雇用率としては平均実雇用率よりも低くなっている。実際、民間企業に義務づけられた障がい者雇用率2.3%を達成できていない企業は全体の半数以上であり、障がい者を1人も雇っていない企業は30万社以上となっている。 では、なぜそのような現状にあるのか。障がい者を雇用していない理由(複数回答可)としては、下記の内容が挙げられた。「障がい者に適した業種・職種ではない」が50%以上を占め、「受け入れる施設が未整備」「雇用義務のある企業ではない」がおおよそ4割、「障がい者雇用に関する知識が不足している」が3割、「募集しているが採用できない」が1割程度となっている。 この回答の中で最も気になるのが、「障がい者雇用に関する知識が不足している」で3割を占めたことである。知識不足から障がい者雇用が進んでいないことがわかる。このことから、そういった企業に対しての細やかな支援が必要であり、この支援によって障がい者雇用の道がひらき、雇用率の上昇へと繋がると私は考える。 伊庭 葉子(株式会社Grow-S 代表取締役) 発達障害教育を通して多くの子どもたちと関わってきました。社会人の生徒を見ていると、「仕事」はその人らしく幸せに生きることを支える大きな柱だと感じます。 障害者雇用が広がる中、様々な仕事で活躍する人が増えてきましたが、その環境は様々です。 特別支援学校を卒業してすぐ社会人となる若い人たちは、仕事のスキルはもちろん、職場でのコミュニケーションや「働く気持ち」を育てていくことなど、多様な支援が必要です。 職場においても教育やサポートを継続して受けることができ、長く働ける仕組みが整っていくとよいと考えます。 白根 邦子(一般社団法人happy choice(ハッピーチョイス) 代表理事 就労継続支援B型事業所ハッピーワーク松戸 戸定そば幸<飲食店>) 国の施策である障害者総合支援法における就労系障害福祉サービスは、「就労移行支援事業所」「就労継続支援A型事業所」「就労継続支援B型事業所」「就労定着支援事業所」と4つのサービスがあります。A型、B型の位置づけや曖昧さが一般企業への障害者雇用の遅れの原因ともなっていないかと疑問に感じることがあります。 A型事業所の運営法人は株式会社、合同会社その他が約50%以上となっています。 またB型に求められることの膨大さです。仕事を確保・拡大するためには企業等と競争 しなければなりませんが、利用者・職員の状況や知識・技術の面で不利な立場にあり従来の考え方や方法で経営を改善し工賃向上を図ろうとすることには,もはや限界がきています。 これまでの考え方や方法を超えるより積極的な施策を展開する必要があるといえるのではないでしょうか? 鶴岡 正明(特定非営利活動法人Cue(キュー) 理事長) ①「障害者が働くこと」を、どのように支援しているのでしょうか 私は就労継続支援B型事業所で主に精神障害をお持ちの方の支援をしています。病気との付き合い方、人間関係、金銭管理といった、働く土台となる部分をサポートしながら作業を通して働くということはどういうことかをお伝えしています。 ②「働く障害者」の課題は何でしょうか? 病状の安定、良好な人間関係、生活に必要なお金を一定の水準で保つことが大切になってきます。問題が発生した時にそれぞれの課題についての相談先がない、または相談先と関係性を築けていないケースは定着が難しいと感じています。 ③「障害者が働くこと」へ期待していることは何でしょうか? 体験の貧困は自分の可能性に気づくチャンスが少ないということです。働くことで得る収入は体験のきっかけをくれるものです。働く先に自分らしく生きられる未来があると信じてます。 就労継続支援B型事業所で働く精神保健福祉士A(匿名) 精神障害者の支援をさせていただく中で、 ”週2~3日程度の短時間就労であれば企業の戦力として十分働ける”と当事者や支援者が考えても、障害者雇用に算定されるのは週20時間以上。 そのハードルの高さに一般就労を諦めざるを得ない方が多数いらっしゃいます。 そのような方が一般就労にチャレンジするには、非開示か、よほど理解のある企業様に限られてしまいます。 一般の求人であれば「週1日からOK」という求人もありますが、障害者雇用枠ではそのような選択肢はそもそもありません。 多様な働き方が叫ばれるようになった今、制度が追い付いていないように感じています。 於保 裕希(特別支援学校教師) 「医ケア児支援法が可決されたことにより、18歳までの児童支援は自治体を含めて取り組んでいくことになるかと思います。 それにともなって、18歳までの支援が厚くなった分、18歳以降の支援とのギャプがどのような影響を与えてくるのかが懸案事項としてあがってくることが予想されます。 例えば、酸素ボンベの扱いやカニューレ内吸引は自分ではできないけれど就労継続支援事業を活用できる力がある方はいるかと思います(何をもって「働く」とするのかにもよりますが)現状看護師がいないため多くの方が生活介護事業を利用せざるを得ない状況に置かれているかと思いますが、就学中にあった環境が社会に出ると無くなるというケースが今後いろいろな場面で起こる事が予想されます。 現状、制度上は働く=ヘルパー等の福祉的な支援は原則利用できないという抑えかと思いますが、医療的ケアの面も含めて医療や福祉を利用しながらも「働く」ということの間口が広がっていけるとさまざまな選択肢やあり方が生まれるなと思いました。 新井 利昌(埼玉福興グループ代表) コロナ禍の状況の中、今までの考え方が終わり、これからの考え方を示していかなければならない環境になりました。 障害者雇用の課題は障害者雇用そもそもできない、現在の雇用の維持で精一杯、未達成企業、課題を抱える企業に対しては、「いわゆる障害者雇用ビジネス」も生まれ、国と共にしっかりと障害者雇用の制度、福祉、労働と一体になって、考え直す時と感じています我々の世代からは、しっかりと障害者雇用が国民のテーマになるようなステージに持ち上げなければならないと、皆さんと行動に移していきたいと思っています。 税田 和久(株式会社グローバル・クリーン  代表取締役社長) グローバル・クリーンでは創業以来22年障がい者を現在5名雇用しております。 おかげさまで、弊社の障がいのスタッフさんは自己成長しながらスキルアップを重ね、活躍してくれています。 しかしながら、まだまだ地域社会においては、一企業が障がい者雇用を促進しても地域のお客様のご理解が広がらなければ、雇用の拡大が見込めないのが現実です。今回のフォーラムなど、地域社会へ障がい者雇用への理解を広げる活動が非常に重要です。 ぜひ、ご参加の皆様と共に勉強出来ればと楽しみにしております。 赤塚 正樹(ひので総合特許事務所 代表) 法律上の義務や社会貢献という視点で障害者を雇用する企業が増えていて、障害者の働く場の提供という意味では一定の効果が認められます。ただ、個人的には、このような障害者雇用の動機には違和感を覚えます。 企業にとってのメリットは何?そこを突き詰めて考えて理解する必要があるのではないでしょうか。 雇用した障害者が戦力として活躍し、業務の改善・効率化が図れ、多様性を認め合う企業風土を作り上げる。そういったメリットを企業が理解すれば、障害者の雇用は自然に拡がっていくでしょうし、それがあるべき姿かなと思っています。 戸田 実知子(有限会社戸田商行 取締役社長) 戸田商行では、45年前から途切れることなく障がい者雇用を継続しています。 障がい者雇用の課題は、雇用する側が、障がい者雇用を特別なことと捉えていること、と考えます。 自分たちはマジョリティで、障がい者はマイノリティという区別が根底にあり、合理的配慮も含めて、障がい者雇用は難しいと考える企業がまだまだ多いと感じます。例えば、パソコンの操作が苦手な健常者がいれば、プロ並の操作スキルを持っている障がい者がおり、業務によっては、障がい者と健常者が逆転する場面があると考えます。 同じ人間として、障がい者の持つ可能性に理解を示し、社会全体で多様性を受け入れるという理解が必要です。それぞれの人が尊重される社会の実現に向かう世界の潮流は、障がい者雇用の分野においても、今後加速していくと期待を寄せていますが、我々障がい者雇用の実践者が情報を発信することも必要だと考えています。 榎本 重秋(ぜんち共済株式会社 代表取締役社長) 弊社が長年、障害者雇用を行い、障害者実習を受け入れている中で感じていること。 障害のある方への声掛けが多く生まれることにより会社の雰囲気がよくなり、また、問題発生時の原因について自分に目を向けるようになってきました。さらに障害のある方の成長を社員全員で喜ぶ、ということが生まれました。これら良い効果の一方、ご本人と社員がとことん向き合う姿勢や、それを通じた適正な業務の切出しについては、まだこれから向上の余地があるように感じています。 今あげたことは、障害のあるなし関わらず組織として大切なことですが、障害のある方の存在によって気付きが促進されているように思います。 障害者雇用の一番の課題は、このような効果が生まれることに「気付かない」「目を向けようとしない」企業がまだまだ多くあるということかもしれません。 松田 章奈(株式会社きものブレイン 専務取締役) 当社の課題としては平成元年より障害者雇用を続けているため、障害者の高齢化が進んでいることです。親も高齢化しているため、親が亡くなった後を見据えたグループホームの入居など、アドバイスはできても本人に否定されたらそれ以上踏み込むことができません。親の介護が必要になりそうな障害者もいるので会社としてどこまで介入すべきか課題はたくさんあります。連携機関と相談しながら見極めていきたいです。 松本 仁(社会福祉法人うらわ学園 施設長) 私の知る人に、老舗デパート等の商品包装の仕事に長年就き、資格も持ち、包装技術を追求されてきた方がいます。その方が精神障害を持つようになった事から離職し、障害を開示する事で商品包装の仕事に再び就こうとしますが、障害者求人では同じ技術レベルでの仕事は見つからず、悩んだ末に障害を伏せ、一般雇用枠の求人から再び商品包装の職に就きました。本当は障害を開示して働きたかったのですが、それは叶わず障害を隠す事で生じる大変な苦労を負いながら働かれています。障害者雇用の課題を訊かれた時にいつも浮かぶ事例の1つです。 匿名(株式会社 取締役社長) これまでの障害者雇用というと、多くの場面で雇用率に代表される数の論理が先行していたと思います。これは法律上からは致し方ないこととは思いますが、日々社員と向き合って仕事をともにする中で、数から質、現在から将来、そういう視点の転換が必要と感じています。 そしてもう一つ、ダイバーシティがもたらす効果をどうやって知らしめていくか。その効果が分かりやすければ、分かりやすいほど、自発的に障害者雇用の場が広がっていくと思います。 高口 和之(NPO法人志木市精神保健福祉をすすめる会 精神保健福祉士) 障害者雇用で働いている、とある障害がある方から「周りに誰もいなければ電話対応ができるのに、周りに誰かがいると途端に緊張して話せなくなる」とお聞きしました。それならば、一人で電話対応できる環境を作れば、この方の課題はすぐに解決できます。社会の常識、因習にとらわれず、「働く」ということを再定義する時が目前に迫ってきていると感じております。 林 善宏 (SAPハピネス株式会社 代表取締役) 障害者法定雇用率2.3%に対して昨年61報告時点で弊社は9.58%の達成となっています。 この結果は特例子会社を運営する意義を果たしているとも言えますが、一方で親会社の雇用母数が減少していることも一つの要因があります。この件もコロナウィルスが障がい者の雇用継続に大きな影響を与え始めたと言う事にもつながっているのではないでしょうか。 そのような状況でも私達が障がいを有している方を雇用し継続するうえで大事にしていることは 「凡事徹底」当たり前のことを非凡に行える力 「共に生きる」理解してから理解してもらうように 「効果性」終わりを思い描く 支援者も障がい者もこの3つを共有し、個々の問題にぶつかっても越えられる力の源になるように取り組んでいます。課題を一つ一つ解決する方法は数えればきりが無く存在します。それより、どのような意識を持ち、そしてどの様な良い習慣を身に着けるか、が、これからの社会の一員として生きぬく事が出来るかだと思います。 小田島 康子(NPO法人誠会 多機能型事業所ジャンプ生活介護 サービス管理責任者) 私が職員として働いている生活介護事業所では、業務委託を受けてお弁当配達を行っています。利用者さんの様々な特性やストレングスにあわせて役割担当を決め、どのようにしたらスムーズに利用者さん達が配達を行えるのか考えてマニュアル作成をしています。会計、お弁当箱の洗浄と返却も行っており、仕事を通して「ありがとう」「ご苦労様」の言葉をいただくことで、やりがいを感じ利用者さんの自信になっています。障がいをもっていても、社会で役割をもち地域と関わりながら自分の特性を活かせる仕事をすることが、生活力の向上にも繋がっていくのではないかと考えます。 障がい雇用では、離職率の高さや職場関係の人間関係、体力の問題等、多くの課題がみられますが障がい、健常者と隔たりなくお互いのコミュニケーションを大切にし、尊重していくことが大切なことだと思います。今後、障がいの特性や職務能力を活かし活動の機会が広がっていくことを願っています。 飯田 栄(Prostyle株式会社 代表取締役社長) 我々、中小零細企業では、マンパワーがかなり必要とされるため、障害者雇用を行いたいと考えてはおりますが、なかなか踏み出せないのが現状です。また、情報も少なく、取りに行かないとわからない状態が多いことも課題の一つだと感じます。中小零細企業でも障害者雇用ができる環境づくりとサポートの選択肢がもっとあると、雇用も進むのではないかと感じております。 杉本 伊勢子 (身体障がい者の家族) 特別支援学校における職業教育の課題として、夢を持って働くことを学ぶよりも一般社会に適応するためのスキルを学ぶことが重視されているのではないかと考えています。子どもによっては学校で自立することに頑張りすぎてしまい、働くことへの自信を無くしてしまう場合があります。特別支援学校には、子どもの個性や特性に合わせた職業教育が求められるのではないでしょうか。そのためには子どもが主体となり子どもと対話しながら、夢を持って働くことを学べるシステムや環境作りが必要であると考えます。 杉本 健一(株式会社アドバンス北陸サービス 代表取締役) 雇用している場面緘黙の女性Hさんは、就業中は携帯を見ないという約束が守れず、担当職員が面倒みれないということになりました。母親と話した結果、母親が娘の障がいをしっかりと受けとめていなかったことが大きな要因と気づきました。障がいから目を背け、期待ばかりが大きくなり(教育ママ的な感じで)母からのプレッシャーや寂しさを携帯に求めていたようでした。障がい者を持つ親は深く愛情を注ぎがちで、甘やかしてしまう側面もあると感じます。本人の将来を真に想うなら周りの人達との関係性を上手につなぎ、周りのおかげで自分があると伝えることも重要なことだと思います。 上濱 直樹 (株式会社メジャメンツ 代表取締役) 現在の日本は障害者が働く (お金を稼ぐ) といことに対して環境が整っているとは言えない状況です。 通勤・通所の問題、勤務時間の問題、職場環境の問題、ヘルパーの問題、通院の問題、そして給与の問題。多くの問題を抱えているため、働きたいけど働くことが困難という方が多くいらっしゃいます。 サニーバンクではそれらの問題を解決していくべく「在宅ワーク」を中心に、障害者の方々が無理せずできる仕事を提供しています。障害者の収入向上やQOL向上だけでなく、それによって非障害者との間にある「心の段差」が少しでも無くなればいいなと考えています。 横山 由紀子(有限会社福祉ネットワークさくら 代表取締役) 弊社は2013年より障害者を雇用し始め、現在、精神知的身体障害者各1名ずつ計3名の雇用をしている。課題としては精神障害者の雇用継続の難しさが挙げられる。ジョブセンター等の専門機関に間に入って頂きたいと思うが介入に拒否があること、また、突然の休みが多く重要な仕事を任せられず戦力にならない等。また、教育をしていく中での助言や注意の仕方で精神的に傷つき、翌日より出社出来ない等、教育者の未熟さと受け取る側の相違について困難さを感じている 中村 竜志(障害者就業・生活支援センターSWAN センター長) 多くの方が様々な立場からコメントを寄せられていますので、僕からは「支援者の事」をお伝えしたいと思います。 たくさんの働く障害のある人たちが、支援者に相談をし、時には支えられながら、就労を継続されています。 支援者の仕事は「大変ですね」「素晴らしい仕事ですね」と言っていただきますが、ほとんどの支援者の給与水準は低いです。 同年代の平均年収よりもずーっと低いのが現実です。 やりがいだけでなく給与面も充実する事で、優秀な人材が集まり、皆がやりたい仕事となり、人材確保と人材育成が進みます。 支援者も障害のある人も企業で共に働く皆さんも幸せになる障害者雇用を作っていきましょう! 芳賀 久和 (京都市障がい者就労支援ネットワーク『CoCoネット』 運営メンバー) 日本における企業数は9割以上、労働人口でいっても6~7割は中小企業が占めています。障がい者雇用が普通になるためには、法定雇用率に掛からない中小企業が本気で取り組まないといけません。ですが、中小企業の場合、大企業のように特例子会社を設立したり、社内で専門のジョブコーチや担当を配置し、これに取り組むことは非常にハードルが高いと感じます。なので、これを実現していくためには地域の障がい者就労を取り巻くネットワーク作りが必要だと考えます。実習マッチングや、その後のフォローを、地域ネットワークで、支え続ける、“誰も取り残さない”仕組みづくりが重要と考えます。 遠田 千穂(富士ソフト企画株式会社(富士ソフト特例子会社)企画開発部 部長) 障がい者雇用は何かをしてあげなくては、では長続きしない。 障がいのある方々に、この仕事を手伝って頂こう・助けてもらおうという逆転の発想で長続きする。 人は誰かの為に動くことにより、思いもよらぬ力を発揮する。 合理的配慮は一方的なものではなく、双方向で配慮し合うことにより初めて成立する。 SDGsも権利の主張ばかりではなく、自分達が何が出来るかを考えてこそ持続可能な社会が実現する。 当社では、社員の9割が障がい者手帳を保有しており、身体・知的・発達・精神障がいの社員がお互いに助け合いながらPCを使った業務を遂行する。 身体の方が他をサポートすることにより、機能回復が見られ、知的の方は能力UP・発達の方はコミュニケーション能力UP・精神の方は 薬減・夜良く眠れるなどの障がいの軽減が見られる。就労は障がいを軽減する。就労は究極のリハビリである。 障がい者が健常者のリワークも担当することにより、障がい経験を最大限に活かすことも出来る。 当事者でしか分からない苦しみを強みに変える業務の工夫が企業に求められる時代である。 匿名(株式会社 代表取締役 社長) 障がい者就労のあるべき姿を考えてみると、現場で一緒に働いているスタッフや指導員がより一層一人一人の目線でサポートすることを意識出来るか? 自分達に(当たり前)のことが、その方にとっては必ずしも(当たり前)でない・・・と思えるか? そして何よりも重要なのは、その会社やグループ組織のトップ層が経営課題として、利益をあげたり資金繰りと同じテーマと位置付けて取り組んでいるのか? 難しいことですが、とても大事な事と感じております。 瀧 幸子(「いい会社研究会」・TNC・一般社団法人こどもになる代表・児童発達支援放課後等デイサービスル・クッカー管理責任者・大阪) 障がい者雇用の課題は、「福祉」への思い込みだと感じています。誰しも、困り事や生活の中に「障害」はあります。日本の教育は、みんな一緒に同じペースで学びますが、本来みんな違うのであれば、学びも仕事もそれぞれのペースで進める方が一人ひとりの生活は豊かじゃないかと…私は、こどもたちから教えてもらうのです。その弊害は、雇用へも繋がっていると思います。「どうせできないだろう」という思い込みを捨て「どうやったらできるか」障害の有無かかわらず、そちらにフォーカスできる経営者が増えれば…「福祉」への思い込みはどんどん無くなり、障がい者雇用が当たり前になると思えてなりません。 井原 太一(こども成長を護る杉並ネットワーク代表・杉並区議会議員) 杉並区役所で障がい者が働いている姿は日常の光景となっています。しかしこれはある程度規模があり財政力のある事業所だから出来ることかもしれません。そしてこのような雇用の在り方は、職場に合わない人には働く場所がない、ということにもなりかねません。 新型コロナは「新しい生活様式」を加速させました。リモートワークが増え、自宅でも仕事が出来る社会に、人々は抵抗を感じなくなりました。障がい者が職場に合わせるのではなく、多様性を尊重し職場が障がい者の持つ特性や能力が社会で活かされるあり方が、これから広がって行くのかもしれません。 障がい者の為に区が行っていることは、多々あります。親亡き後も困らないグループホーム設置など居住支援に関する施策にも新しい仕組みを取り入れようとしています。学校では、障がいのある子、ない子にかかわらず、ともに理解し合い、ともに生きる社会を目指したインクルーシブ教育を続けています。 このようなひとつひとつの積み重ねが、将来の共生共栄社会へとつながるよう努力をしています。 関口 進(NPO法人一歩・いっぽ 代表理事)   私は、いかに早期から技術をつけさせたり才能を伸ばしたりする「幼少期からの就業のための支援」が課題だと思っております。 ハンディがあってもその児童が興味をもち活かすことが、就業のための支援につながると思います。ハンディがあっても、保護者をはじめとしてそのサポートをすることによって見出される技術や才能は社会をも動かすものともなります。 ですから、幼少期保育園等で実体験ができる場が必要です。まだまだ、その場が確保されていません。 ぜひ、「公」の立場で、幼少期からの就職支援につながる保育所等の設置を義務付けるべきだと思います。

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